モンゴルをぽよぽよと愛そう

モンゴルについてつらつら書くだけのブログです。旅行記やお勉強の備忘録など。

向かい風に手綱

モンゴルの記憶は不思議な匂いがする。

あれはなんの匂いかと言われるとよくわからない。多分草とか、家畜の糞とか、乳とか、土とか、いろんなものが混じった匂いなんだろう。

 

わたしの大切な友人の一人は、モンゴルにいる。

家畜を逐い、じゃがいもと小麦粉と肉を食べて暮らしている遊牧民である。わたしより少しだけ年下だが、いつも落ち着いていて、働き者だ。

話すときは、重いまぶたの下から、少しだけ黄色がかった茶色の大きな瞳がこちらをのぞく。その視線には、猜疑の気配がない。一語一語、確かめるように話す。こちらが答えると、大体ふうん、といった様子で他所を向く。何を考えているんだか、よくわからない。

 

写真に映るその目を見ると、わたしは、薄れかけていたモンゴルの匂いを、その感覚を取り戻す。

草の、風の、土の匂い。彼の眼の色。ゲルに遠慮がちに響く、きれの良いモンゴル語。家族の笑い声。スーテーツァイの湯気の香り。満天の星の光。

モンゴルの地に流れる悠久の時の中で、あの子はいったい何度生まれ変わったのだろう。

朝靄の中、裸馬で駆けていくあの背中を、風を受ける時の鋭い眼差しを、日に灼けた分厚い頬を、いったい誰の目に映してきたのだろう。

 

モンゴルの匂いは、不思議な記憶を呼び覚ます。

とろりと深い色のカフェオレに、蹄の音が波打つ。